HOME  >  COLUMN  >  部下のメンタルヘルス不調をへらすには〜超一流医学誌の研究結果から〜

部下のメンタルヘルス不調をへらすには〜超一流医学誌の研究結果から〜

  • 管理職にメンタルヘルス研修をすることで、部下がメンタルを病んで仕事を休むことを減らすことができるかもしれません。Lancet Psychiatryという一流医学誌に2017年11月「Workplace mental health training for managers and its effect on sick leave in employees: a cluster randomized controlled trial (管理職に対するメンタルヘルストレーニングの、病気休業する従業員への効果)」という論文が掲載されました(Lancet Psychiatry 2017;4: 850–58)。
     
    この論文は、オーストラリアの救急・消防サービスの管理職に対して、4時間の対面式のメンタルヘルス研修を行い、6ヶ月後の従業員の病気休業時間の変化、を計測し、研修を受けていないコントロール群と比較しました。
     
    結果、研修を受けた群では、従業員の職務関連性のある病気休業時間(work-related sickness absence)が有意に減少しました。6ヶ月で従業員一人あたり6.45時間の休業減少効果があり、研修への1ポンド(約140円)の投資は9.98ポンド(約1400円)のリターンがある、と推計されています。また、研修をうけた管理職は、部下とのコミュニケーションに自信を持ち、メンタルヘルス不調やストレスで苦しんでいる部下と積極的にコンタクトを取るようになりました。
     
    結果だけ読むと、当たり前かな、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、逆にいうと今までは管理職研修の効果について、学術的なエビデンスはあまりありませんでした。本論文の特筆すべき点は、エビデンスレベルの高いランダム化比較試験で、実際の「従業員の休業時間」という客観的指標を評価していることでしょう。過去の研究の多くは、管理職研修の効果を「部下従業員のメンタルヘルスの症状」で評価していましたが、症状はどうしても主観的でその時の状態(悲観的になったり楽観的になったり)に左右されてしまいますし、実際に仕事への影響はどうなのか、がわかりませんでしたので、より直接的な効果が今回検証されたものと思います。
     
    さて、気になるのは実際の研修内容です。これは3つのセクションから成るようです。
    第一セクションでは、職場における一般的なメンタルヘルス不調について、90分の講義です。気分のおちこみ、心配・不安、トラウマ後ストレスの症状や、不適切な飲酒習慣について理解を深め、これらが職場でどのように表出されるかを学びます。
    第二セクションは、メンタルヘルス不調における管理職の役割と責任についてで、メンタルヘルス問題を抱えた部下への望ましい接し方を勉強します。ただ「がんばれ」といってもだめで、管理職が自らの考えや思いを表現することが、重要です。
    第三セクションは効果的なコミュニケーションと、マネージメントスキルの向上を目指します。「職務で重大な過失をおこしてしまった後に、心身の不調を訴える労働者」をケースにして、グループディスカッションを行い、ポジティブコミュニケーションテクニックについて学んでいきます。筆者らは、メンタルヘルス不調をきたした労働者とのコミュニケーションで大事なことを”RESPCET”と呼んでいます。これは以下の7つの原則の頭文字です。
    Regular contact is essential(定期的なコンタクトが重要)
    Earlier the better(早いに越したことはない)
    Supportive and empathetic communication(指示的で共感的なコミュニケーション)
    Practical help not psychotherapy(精神的ではなく現実的な手助けを)
    Encourage help-seeking(手助けを積極的に求めよう)
    Consider return to work options(仕事の戻れるような方策を考えよう)
    Tell them the door is always open and arrange next contact (次の連絡日をきめよう)
     
    なお、他の職種でもこの論文の結果を当てはめて考えてよいか、は慎重さが必要です(救命士・消防士は、極めてストレスの高い環境で仕事をしています)。また、この研究で対象となった管理職は(結果的に)すべて男性だったので、そこも注意が必要でしょう。
     
    この論文を書いたオーストラリア、ニューサウスウェールズ大学のHarvey先生らのグループは今年、オンラインでの管理職研修やマインドフルネス・レジリエンストレーニングの論文を多数出しています(下記)。ランダム化比較試験も計画しているようなので、数年後には結果が出てくると思います。私は自身の地方での経験から、特に首都圏以外のリソースがあまりない場所での、復職支援や職場でのメンタルヘルスの問題に取り組んでいきたいと考えています(link:うつ病の復職支援)。オンラインでの研修には非常に注目していますし、働く人たちをempowermentできるよう自身も頑張って参りたいと思います。
     
     
    A New Online Mental Health Training Program for Workplace Managers: Pre-Post Pilot Study Assessing Feasibility, Usability, and Possible Effectiveness
    JMIR Ment Health 2018;5(3):e10517
     
    A protocol for the HeadCoach trial: the development and evaluation of an online mental health training program for workplace managers
    BMC Psychiatry. 2018 Jan 29;18(1):25.
     
    Mindfulness-Based Resilience Training in the Workplace: Pilot Study of the Internet-Based Resilience@Work (RAW) Mindfulness Program
    J Med Internet Res 2018;20(9):e10326

一覧
ARCHIVE:

産業医をお探しの企業様、
お気軽にお問い合わせ下さい。