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新型コロナウィルス感染症 (2020年2月11日最新情報)

  • 2020.02.11


    動画で解説しています。こちらもぜひ御覧ください。
     

    今回は新型コロナウィルス感染症について、現時点でわかっているファクトを中心にお話していきます。
    具体的には、現在の感染状況、コロナウィルスの感染力について、そしてコロナウィルスに感染したときの症状、どういう時間経過で病状が進んでいくのか、リスクが高い人は誰か、有望な薬、今後の注目点、中国で起こった背景、予防策、といった流れになります。
    少し長くなりそうですが、論文等で集めて最新のエビデンスですので、ぜひお付き合いください。
     

    【現在の感染拡大状況】
    さて、2月11日現在、総患者数は42763人、死亡者数は1013人。単純計算の死亡率は2.3%です。患者数の99%(の42306人)が中国で、うち武漢は約4分の3の31728人(75%)を占めてめています。死亡者数ベースでみるとほぼ100%が中国で、中国以外で死亡しているのは香港1名、フィリピン1名のみです。中国での死亡者のうち96%(974)が武漢です。
    この図のように、新規患者数は1日3000人程度増えていますが、勢いは少しおちているように見えます。新規死亡数は1日100人にせまり、まだまだ増えそうです。
     

    ちなみに武漢というのは人口1100万人いる、中国第7の都市です。日本だと大体東京23区が全部で920万人、札幌が195万人くらいなので、東京と札幌を足したくらいの、超巨大な都市ということになります。中国当局は武漢を封鎖し、鉄道や飛行機や道路を止めました。また武漢の位置する湖北省の他の都市でも旅行禁止になり、合計5000万人近くが隔離されていると言います。
    中国以外で患者数が最も多いのは、クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号で135人、続いて3位がシンガポールの45人、4位が香港で38人、5位がタイで32人、6位が韓国で27人、7位が日本で26人といった順番になります。
     

    【新型コロナウィルスについて】
    まず、ウィルスの戦闘力を見るのに大事なのが、ウィルスの拡散速度の指標である”基本再生産数“という指標になります。これは、1人の感染者が、免疫を持たない人何人に感染させるか、を表す数字です。これは1/23のWHOの報告(1)で1.4-2.5、1/29のNEJM(2)という世界トップの論文に掲載されたもので2.2、1/30の別の論文(3)でも2.24-3.58と推定されています。だいたいどれも2~3くらいで、つまりこれは1人の人が平均2~3人にうつしますよ、ということです。
    これは、季節性インフルエンザや2002年のSARSと大体と同じぐらいで、最も感染力が強い麻疹や百日咳の基本再生算数が16~20から見ると特別に高いわけではありません。
     

    また、ウィルスの戦闘力として死亡率も大事ですが、これは現在の実数で計算しても2-3%で、SARSの10%や2012年のMERSが34%程度よりも低い値です。ただ、インフルエンザの死亡率は0.05%程度と言われているので、その4~6倍位の死亡率はあります。
    ただし、現在の死亡率には数字のトリックがあります。
    それは、感染の初期は、重症の人が先に見つかって、軽症の人は発見されないので、見た目上死亡率が高くでる、ということです。よって最終的な死亡率は現在の2-3%よりももっと低くなると思います。
     

    ここでこの新型コロナウィルスがどうやって見つかったかというと、原因不明の肺炎患者の気管支肺胞洗浄液のサンプルを、次世代シーケンスを利用してゲノム解析を行うことで発見されました。SARSのときのコロナウィルスと遺伝子配列を79%共有し、コウモリコロナウィルスと96%の相同性があります。このことからもともとコウモリのウィルスだったものが、何らかの理由で人にも感染するようになった、人獣共通感染症だと考えられています。調査によって、初期の患者では武漢の海鮮市場に関わりがある人が多かったことがわかったのですが、この海鮮市場でコウモリは売っていなかったので、コウモリから何らかの別の動物にうつり、そこから人にうつるようになったのではないか、と考えられています。しかしその中間宿主はまだわかっていません。ヘビでは、という報道もありましたが確定に至ってはいないようです。この中間宿主は例えばMERSのときは、アラブの人の生活に欠かせないヒトコブラクダでした。
     

    【新型コロナウィルス感染症の症状】
    最初に患者が報告された1月下旬から20日近くなり、感染の実態が明らかになってきました。中国から大量の論文が、Lancet,NEJM、JAMAという一流医学誌に投稿された他、bioRxivという査読を経ないかわりに速報性のある論文投稿サイトに、データが公開されていったのです。休む間もないほどに診療が続いているはずなのに、これだけ論文を書くというのは本当にすごいことです。
     

    No 掲載日 雑誌 場所 人数 死亡率 コメント
    1 1月24日 Lancet 武漢 44 15% 66%海鮮市場、29%ARDS
    2 1月29日 NEJM 武漢 425 不明 1/1以前発症の55%が海鮮市場, 1/1以後は8.6%
    3 1月30日 Lancet 武漢 99 11% 49%海鮮市場, 67%男性, 50%慢性疾患5, 2%下痢,17%ARDS
    4 1月30日 NEJM ドイツ 4 0% 無症候患者からの感染
    5 1月31日 NEJM 米国 1 0% レムデシビル使用
    6 2月5日 – 日本 3 0% 1名ロピナビル/リトナビル使用
    7 2月7日 JAMA 武漢 138 4.3% 10%下痢, 41%院内感染, 19.6%ARDS
    8 2月7日 JAMA 北京 13 0% 1人武漢との接触歴なし, 2人子供
     

    【わかっていること】
    1) 症状は発熱、空咳、息切れ、頭痛、筋肉痛など非特異的で、時に下痢や嘔吐も見られます。症状で風邪やインフルエンザと見極めることは困難と思われます。レントゲンをとってもわからない場合もあるが、CTまで入れるとほとんどの症例で両側性に肺陰影がみられるようです。重篤化するとARDSという肺の中に水がたまる状態になり、人工呼吸やECMOという人工心肺による呼吸補助を必要とします。
     
    2) タイムスケジュールとしては、最初の症状から呼吸困難までは中央値5日、入院まで7日、重症化(ARDS)まで8日程度のようです。潜伏期間は中央値で5.2日(95%CI:4.0-7.0)とされ、最大14日程度と考える人もいるようです。
     
    3) 重症化のリスクが高い人、というのは完全にはわかってはいませんが、新型コロナ以外のウィルス性の肺炎と同じように、高齢者、喫煙者、高血圧の既往、細菌との同時感染、リンパ球減少、複数の肺葉浸潤などがリスクの可能性があります(6)。
    また、日本産婦人科感染症学会のHPにあるように、「一般的に妊婦の肺炎は横隔膜が持ち上がり、うっ血しやすいことから重症化しやすいので注意が必要です」。また、出生30時間の新生児での感染も報告されており、新生児は免疫システムが十分に発達していないためにウィルスに感染しやすく、非常に大きな問題です。
     

    【治療として有望視されているもの】
    現在新型コロナウィルスに対して確立された治療はありませんが、有望だと考えられている薬剤が複数あります。
    1) レムデシビル:もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発されたが、エボラにはあまり効かなかった薬です。安全性は確立されています。レムデシビルはRNAのAGCUのうちAのように働き、そこで合成を終了させることで効果を発揮します。in vitroといいますが、試験管の中では新型コロナウィルスの抑制効果が認められ、米国の第一例目で使用された際も患者は翌日に劇的に改善した。これは偶然かもしれないし、かならず効果があるということを示すものではありませんが、少なくとも有望ということで、中国では臨床試験が開始されました。
     
    2) クロロキン:もともとはマラリア、SLE、関節リウマチといった自己免疫疾患に対して用いられている薬です。試験管の中で新型コロナウィルスの抑制効果が認められました。機序としては細胞のリソソームのpHを上昇させ、ウィルスの増殖を防ぎます。
     
    3) ロピナビル/リトナビル:もともとはHIVの薬だが、SARS、MERSに奏功するかもしれないという過去の研究結果に基づいて、臨床試験の枠組みで投与されています。
     
    4) ワクチン:これは治療というより予防ですが、新型コロナウィルスに対すワクチンの第一相臨床試験が2.5ヶ月で開始される予定だと、米国国立アレルギー感染症研究所所長のAnthony Fauci博士が2/7に述べました。
     

    【今後の注目点】
    1) 武漢・湖北省との接点のない患者がふえてくるか?です。今までの日本での陽性患者は、何らかの形でいずれも湖北省との接点がありました。このため、現在の日本の入国が制限されているのは14日以内に湖北省に滞在歴のある外国人、および湖北省が発給した中国旅券を保持する中国人です。そして、症状があった場合に新型コロナウィルスの検査対象となるのは、1)湖北省への滞在した人、2)湖北省に滞在した人と濃厚接触した人、3)確定診断例と濃厚接触した人とされています。なお、例外的にICU入室等の重症者で新型コロナとの鑑別が必要な人も対象となります。
     
    しかし北京で1名武漢での接触歴のない患者からコロナウィルスを検出しており、北京でも相当程度蔓延している可能性も否定できません。これを支持するようなデータが出てくると、現状の入国制限や検査体制では例えば北京からの人は素通りで入ってきているし、防ぎきれません。気づいたときには国内に感染者が多数いる状況になっているでしょう。そのためには、現在律速となっている、新型コロナウィルスのPCR検査を増産できるようにする必要があります。
     
    2) もう一つは、クルーズ船の乗客の感染封じ込めができるか?です。このためには船内での感染の広がりがどういう経路をたどっているのか?知ることが重要だと思います。下船後に感染が確認された香港の男性との濃厚接触者273人へのウイルス検査は終了しており、現在は発熱のある人や80歳以上で体調がすぐれない人などを優先的に追加検査を実施しているといいますが、現在検査をすればするだけ感染者がでる状況で、船内で現在取られている対策が不適当である可能性もあります。
     
    また、2/5から2週間の客室待機ということになっていますが、2/19になったら皆開放するのでしょうか?普通に考えたら、潜伏期間が最大14日ということは、最終患者発生から14日間は隔離しなければ意味がないように思います。しかし、待機期間が長期化すればするほど、クルーズ船の乗客の身体的、精神的ケアが必要になることは間違い無いでしょう。
     

    【中国で起こった背景】
    中国やアジアで新型コロナが流行している原因として、新型コロナウィルスが侵入するのに必要なACE2の発現がアジア人の肺で多く、アフリカン・アメリカンや白人で少ないという論文が出されました。しかしACE2の発現には人種に差は無いという論文もありわかりません。また、男性の方が患者数が多い理由として、男性の方がこのACE2の発現している細胞が多いから、という論文もありますが、こちらも性別による差は無いという論文もあります。また、喫煙者ではこのACE2の発現が高く、中国での男性の喫煙率は48%と女性1.9%と比べて著しく高いことを反映している、との報告もあります。
     
    また、中国の野生動物の狩猟肉をたべる食文化、そして薬食同源と言われるいわゆる珍味を薬として食する文化なども関係しているという人もいます。例えば鹿やトラの腎臓や陰茎を媚薬にしたり、魚や猿の脳みそを賢くする薬として食しますし、センザンコウの肉が、リウマチに効くとされ、その血液は血液循環を促進し、胆汁は癇癪や視力を回復させると考えられています。
     
    さらに、中国のライブ配信アプリで、奇妙だったり、危険だったりするものを食べることが流行っていることも関係しているかもしれません。コウモリのスープやアフリカのカタツムリ、カエル、竹ネズミ、またはタコなどの野生動物をときには生で食べる生放送が人気を博しているのです。
     

    【予防するために重要なこと】
    1) 20秒の手洗い。これはハッピバースディを2回歌うくらいの長さ
    2) 手指のアルコール消毒をしっかりする
    3) くしゃみや咳の際に口と鼻を覆う。手で抑えないでにする。
    4) 顔に手を触れない
    5) 体調が悪いときには家にいる
    6) 子どもにも同じことを教える。
    また、飛沫感染、接触感染の他に、便から感染する可能性もあります。
    報告された症例でも2-10%程度に下痢、嘔吐があり、米国の症例では便からもRNAが陽性になりました。SARSのときも糞便感染で感染が広がったことがありました。
    糞便からの感染を避けるには(1)~(6)に加えて
    7) トイレを流すだけでウィルスが撒き散るので、公衆トイレを避ける
    8) トイレの蓋を締めてから流す
    9) トイレの何を触るのにもペーパーを使う
    などが有効です。
     

    統計情報おすすめサイト
    ・ジョンスホプキンス大学https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6
    ・https://www.worldometers.info/coronavirus/
    参考文献
    (1) https://www.who.int/news-room/detail/23-01-2020-statement-on-the-meeting-of-the-international-health-regulations-(2005)-emergency-committee-regarding-the-outbreak-of-novel-coronavirus-(2019-ncov)
    (2) https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001316
    (3) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1201971220300539
    (4) https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30183-5/fulltext
    (5)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001316
    (6) https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30211-7/fulltext
    (7) https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2001468
    (8) https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001191
    (9)http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/2019ncov_casereport_200205.pdf
    (10) https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761044
    (11) https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761043
    (12)https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.01.26.919985v1.full
    (13)https://www.preprints.org/manuscript/202002.0051/v1
    (14)https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(20)30063-3/fulltext
    (15)http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/corona_200201.pdf

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