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気候変動とメンタルヘルス~台風,豪雨,地震など災害後の心理


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    【毎年のように起こる大きな自然災害】
    2019年10月の台風19号は福島県を始め全国各地に大きな被害を与え、記憶に新しいところですが、2018年は関西国際空港を孤立させた台風21号、2017年は九州北部豪雨、2016年は熊本地震など、毎年のように大きな自然災害が起こり、異常気象を感じることが増えてきました。特にハリケーンは、1990年中頃以降、頻度も強さも増えており、地球温暖化との関連も言われています。 
     

    被災後は今までの生活からはあらゆることが一変します。避難所や仮設住宅での生活を余儀なくされたり、停電で携帯電話や冷暖房が使えなくなったり、学校や職場に通えなくなったり、病院に行けず薬ももらえなくなったり、自宅や職場の後片付けや再建などをしないといけなかったり、などです。 
     

    【被災時の心の動き】
    そのような状況の下では、気持ちが不安定になったりイライラしやすくなる、不眠になるなど精神的に大きな負担がかかります。一般に人間が被災を受けたときの心理は次の4段階を辿っていくといわれています。 
    1段階目は「茫然自失期」といって災害直後に感情の欠如などが見られます。 
    2段階目は「ハネムーン期」です。被災して数日たってから、被災者同士の連帯感が強くなり、がれきの後片付けなどお互い助け合って行ったりして、とても良い雰囲気となります。 
    3段階目は「幻滅期」です。震災からしばらくたって復旧の見込みが出た頃に、援助者や行政などに対しての不満が噴出したり、避難所など人が多く集まる場所でのトラブルが増えたりします。ハネムーン期とは打って変わって地域の連帯感が失われていきます。 
    4段階目は「再建期」です。地域の復旧が進み、生活面が次第に安定してくると、被災者も今後の生活などについて徐々に自信を持ち始めてきます。 
     

    【PTSD(心的外傷後ストレス障害)】
    しかし、うまく心の傷が癒えていかないと、震災後数ヶ月頃から、うつ病や心的外傷後ストレス障害(いわゆるPTSD)を発症することがあります。うつ病の症状は今までの動画でお話したように、不眠や気力の低下などです。 
    PTSDの主な症状は3つあり、一つ目は「再体験症状」、いわゆるフラッシュバックのことです。災害時の状況等を思い出す事で冷や汗が出る、動悸やめまいがする、感情が乱れるなど身体的・精神的なストレス反応が起きます。 
    2つ目は「回避・麻痺症状」です。被災に関する事を避ける行動します。被災を受けた場所に行かない、被災を受けた時のことを思い出さないようにする、または記憶の一部が無くなったりします。また例えば悲しい事があっても悲しまないなど感情の麻痺が起こります。 
    3つ目は「過覚醒症状」です。睡眠障害、イライラ、集中力低下などが起こります。 
    これらの症状が見られる場合は、精神科や心療内科に受診することが必要です。 
     

    【災害後の住居の移動が、精神面でもリスクになる可能性】
    世界中でもハリケーンの被害は増えており、いろいろな研究がされています。例えば、2017年のハリケーンマリアの後にフロリダに避難したプエルトリコ市民の2/3にPTSDの症状があり、そのうち半分が大うつ病の症状に進んだといわれています。一方、プエルトリコに残った人でのPTSDは4割程度で、災害後の住居の移動が、精神面でもリスクになる可能性があることがわかります。これは避難により、もともとのコミュニテイから離れてしまい、生活が一変するからだと考えられます。一方で、自宅などの被害が大きい人ほどメンタルが悪化するとの報告もあり、避難を余儀なくされた人ほど、心的外傷の傷が深いことのあらわれかもしれません。 
     

    【ハリケーン後ジカウィルス感染が増加?!】
    なお、プエルトリコでは、ハリケーン後に10%の妊婦でジカウィルスが陽性になり大きな問題となりました。ジカウィルスは胎児の小頭症を引き起こす危険なウィルスですが、蚊が媒介するので水害後に増えたのだと考えられます。 
     

    【ハリケーン後、妊婦の救急受診が増加】
    妊婦といえば、ハリケーン・サンディのあとのNYの研究では、妊婦の救急受診が増加していました。この報告では精神疾患に関しては8ヶ月後まで徐々に増加しており、災害の精神面での影響が急性期だけではなく、長期間にわたって影響することがわかります。 
     

    【災害後のうつ病が高齢者の寿命を短くする可能性】
    また、2011年の関東大震災後の宮城県岩沼市での調査では、調査に協力した65歳以上の高齢者のうち32.8%がうつ病に、25.2%がPTSDになったと報告され、うつ病が死亡リスク増加と相関していました。災害後のうつ病は寿命を短くする可能性があるのです。 
     

    【温暖化でメンタルヘルス悪化】
    なお、このような自然災害以外の、慢性的な気候変動もメンタルヘルス悪化の要因になる、という研究結果があります。2018年にPNAS(米国科学アカデミー紀要)という権威ある医学誌に掲載された論文で、米国200万人の2002年から2012年までの健康情報と気候情報を結びつけて解析したところ、温暖化の進行に伴いメンタルヘルス不調が増加するとの結果が出ました。また、気温が高いほど、また降水量が多いほどメンタルヘルスに問題を抱えるリスクが上がることも示されました。 
     

    地球レベルの気候変化は、様々な形で人体に影響してきますし、この分野は様々な研究が進められています。今後も少しずつご紹介したいと思います。2020年もどうぞよろしくお願いします。

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