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インフルエンザ2019最新情報 ワクチンの有効性や新しい鼻噴霧タイプについて解説


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    【最新流行状況】
    11月も終わりが近づき、めっきり冷え込んできました。それに伴い各地でインフルエンザの流行が始まっています。
    国立感染症研究所のHP(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-map.html)にインフルエンザ流行レベルマップがのっていますが、2019年11月17日現在、都道府県別では北海道、鹿児島、秋田、長崎、福岡、石川、富山、青森、広島、熊本、神奈川、沖縄、山形、宮城、新潟、福島、宮崎、東京、千葉で定点あたりの観測数が2を超えました。警報がでているところはありませんが、9箇所では注意報レベルを超えています。
     

    【最も効果がある予防方法】
    インフルエンザの予防で最もエビデンスがあるのは、インフルエンザの予防接種です。
    手洗いやうがいよりも、予防接種です。
    もちろん手洗い、うがいはタダでできるので私自身もやっていますが、とくにうがいに関してはあまりエビデンスは有りません。海外ではうがいをする習慣自体がないかため、あまり研究がされていない、という側面もあると思います。
     

    ヨード液によるうがいと水うがいでの風邪の予防効果を比較した論文が、京都大学からでています。この結果は、意外なことに、水うがいの方が予防効果は高かった、というものでした。ヨードが喉の粘膜にダメージを与えるからだろうと言われています。
     

    最近は、紅茶うがいがインフルエンザに効く、と日本紅茶協会が言っていますが、「ほんまでっか」という感じです。平成9年に1本和文で論文がでていますが、血清学的エンドポイントを使用しており、有効性を過大評価しやすい研究デザインなので、お金がある方が行うのをとめはしませんが、科学的に証明されているとはいい難いと思います。
     

    【インフルエンザワクチンの作り方】
    インフルエンザワクチンは高度な技術によって作られていて、一口にインフルエンザワクチンといっても毎年中身は変わっています。
    インフルエンザのワクチンの作り方を説明しますと、毎年2月頃にWHOが、南半球を含めた世界中のサーベイランス結果からその年のインフルエンザの流行株を予測し、ワクチン内容の推奨を決めます。その結果をもとに、国立感染症研究所と厚生労働省で検討が行われ、日本での生産株が決定します。そこから順次作り始め、9月に製品ができて、10月から打ち始めることにます。A型2種類、B型2種類の計4種類に対するワクチンが含まれ、2019/20シーズンのA型は2009年にパンデミックを起こしたいわゆる豚インフルH1N1pdm09とA香港型H3N2が含まれています。
     

    【ワクチンの効果が高い年と低い年】
    風疹ウィルスは抗原性が変わりませんが、インフルエンザは毎年変異が起きて、抗原性が変わるので、毎年打たないといけませんし、予測と流行の一致率によって、ワクチンの効果が高い年と低い年ができます。また、インフルエンザワクチンは鳥の卵を使って作っているのですが、鶏卵内で培養を行う際、ワクチン株が卵の環境に適応して、予防接種してもインフルエンザに反応しないという卵馴化(じゅんか)という現象もあり、型があってても効きがわるい、ということもあります。
    流行も当てないといけないし、ワクチンはナマモノなので製造のむずかしさもある、ということです。
     

    インフルエンザの予防接種の有効率は計測方法によって大きくことなるのですが、論文ベースでは低く見積もって60%くらい、高いと70-90%くらいです。しかし論文としてのエビデンスレベルが高いランダム化比較試験をすると、結果がでるまでに時間とコストがかかるので、もっと簡単なネガティブケースコントロールという方法が、ワクチンの有効性評価の手法として主流になってきました。CDCは毎年しっかりとその年のワクチンの効果を評価してHP上で公開しています(https://www.cdc.gov/flu/vaccines-work/effectiveness-studies.htm)。最も低かった年が2014-2015年の19%、次に低かったのが2018-2019年シーズンで29%、それ以外のシーズンはだいたい40-60%くらいの数字です。この有効性の意味は、インフルエンザになるリスクが-40%〜60%くらいになりますよ、ということで、100人いたら40人防げます、という意味ではないので注意が必要です。
     

    【予測がはずれても効果はある】
    ちなみに流行の株と、ワクチンの型が外れていても、交差免疫である程度の感染予防効果と重症化予防効果はあると言われています。
    実際2017-2018シーズンは米国にとって過去最悪の流行で、8万人が死亡(うち小児180人)、90万人が入院しましたが、インフルエンザで死亡した子供の8割は予防接種を打っていませんでした。また、PNAS(米国科学アカデミー紀要)という一流医学誌に乗った論文では、ワクチンの有効性がわずか20%であっても、米国民の43%がインフルエンザワクチンを接種すれば、誰もワクチンを接種しなかった場合と比べて、死亡者数が半減する、と報告されています。ワクチンの有効性が低くても、全然うった方がいいですよ、ということです。
    →さらに知りたい方はこちらも御覧ください https://kenwork.co.jp/column/153/ 
     

    こういうときに米国のデータしか示すものがないのが本当に残念なところで、日本は科学的な政策決定とその振り返りが決定的に苦手だな、と思います。
     

    【実際の接種に際して】
    インフルエンザのワクチンはだいたい接種後2週後から効果を発揮して5ヶ月くらい続くと言われています。妊婦さんはインフルエンザの重症化リスクが高いので、特にぜひうった方が良いです。授乳婦さんも問題有りません。卵アレルギーの方でもうって大丈夫です、
    費用はだいたい3500円程度ですが、例えば関東IT健保などは補助が非常に充実していて本人と、扶養の家族全員に2000円の補助がでます(https://www.its-kenpo.or.jp/kanri/influenza.html)。
     

    【新しい鼻噴霧タイプのインフルエンザワクチン】
    インフルエンザワクチン関連のトピックでいうと、早ければ2年後に鼻タイプのものが発売される見込みです。阪大微生物病研究会が開発した不活化ワクチンで、針を刺さなくてよくなるので、特にお子さんにはよいと思いますし、局所の腫れなどもへるかなと思います。ただし、有効性等のデータは公表されていないのと、臨床試験では2回うちだったようなので、その投与の手間とコストが問題になりそうです。
    これは一部のクリニックで輸入で使われているフルミストという鼻タイプのワクチンとは違うものです、フルミストは生ワクチンで、基本的には元気で持病のない「2歳から49歳まで」しか推奨がなく、妊婦や持病のある方はだめです、阪大グループが開発したものは不活化ワクチンなのでそれらの制約がゆるくなるのではないか、と思います。
     

    【血液内科で治療中の患者さんはワクチンが打てない】
    色々話してきましたが、インフルエンザワクチンは医療職はほぼ全員接種しています。病院にはインフルエンザがたくさん集まってきているので、ワクチンを打たないとか怖くて診療できないというのが理由のひとつ。もう一つは、特に私がいた血液内科などでは、患者さん自身は予防接種を打てないからです。抗がん剤で治療している最中は免疫のリセットボタンを押しているようなものなので、ワクチンを打っても免疫がつかないのです。
     

    2015年には米国カルフォルニアで7歳の白血病の男の子が、みんなワクチンを受けて、と発信したことが話題になりました。この年の米国では、特に麻疹が流行していましたが、彼の通う小学校では実に7%の児童が予防接種を受けていなかったため、万が一麻疹かかった場合非常に重篤になることを考えると彼は学校に通えなかったのです(彼自身は生ワクチンである麻疹の予防接種をうけることができません)。7歳の少年の発信は大きな共感をよび、最終的にはカルフォルニアで「個人の信条でワクチンを拒否することを禁止する」法律が成立しました。
     

    ご自身を守るため、そして打ちたくても打てない方もいることに少しだけ思いをはせて、予防接種を打てる方はぜひうって欲しい、と思います。

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