HOME  >  COLUMN  >  冬場の体調不良、”冬季うつ病”=季節性情動障害(SAD)について

冬場の体調不良、”冬季うつ病”=季節性情動障害(SAD)について

  • 2019.10.28


    動画でも解説しています。ぜひ御覧ください。
     

    【冬季うつ病=季節性情動障害(SAD)】
    10月も終わりに近づき、最近は少しずつ寒くなってきましたね。
    寒くなって来ると朝起きるのが辛くなり、出勤が辛くなります。
    それでもやっぱり多くの方は、なんとか頑張って定時の前に出社していると思いますが、中には来られなくなってしまう人がいます。
    そういう方は、秋〜冬にかけての寒い時期だけ抑うつ状態になる、いわゆる「冬季うつ病」の可能性があります。
    冬季うつ病は通称で、正確には季節性情動障害といいます。英語の「Seasonal Affective Disorderの略なのでSADと略されたりします。
    今日はSADの症状、原因、診断と治療、そして日常生活での工夫について解説していきます。
     

    【SADの症状】
    はじめに症状ですが、典型的なSADでは秋〜冬にかけて、うつ病のような症状がでます。具体的には、気分が落ち込み午前中は特に調子が悪くなったり、集中力が落ちていつもどおりに仕事ができなくなったり、イライラ感や不安感がひどくなったり、物事に興味が湧かず楽しめなくなったり、他の人と交流する頻度が減ったりする、などの症状です。
    また、一般的なうつ病と違いSADに特徴的な症状もあります。睡眠は過眠傾向となり、食欲は増大し、特に炭水化物を好む傾向があります。結果、冬場に体重が増えてしまうことも多いのが特徴です。
     

    そしてSADではこれらのうつ症状が冬が終わり暖かくなると軽快していきます。
    SADの発症は働き世代の20-30代の若者に多いと言われています。日照時間の短い高緯度地方に済む人の方が発症しやすいという報告もありますが、関係ないというデータもありまだ決着がついていません。
     

    【SADの原因】
    つづいて原因ですが、うつ病同様、まだ完全に解明はされておらず仮説の段階です。今日は仮説のうち有力と考えられている3つを紹介します。
    1つ目は、サーカディアンリズムと呼ばれる体内のリズムの乱れが原因だ、という仮説です。人間の体内時計は24時間よりもわずかに長く(短い人も少数ながらいます)、体内時計のタイミングを外界の24時間毎の明暗周期に一致させるシステムがあります。この同調がうまく行かず、体内リズムと外界のリズムが合わなくなってしまうことが原因ではないかという仮説です。
     

    体内のリズムの中で特にメラトニンというホルモンに注目している研究者もいます。メラトニンは夜に分泌され、睡眠を促すホルモンですが、SAD患者では冬の長い夜間にメラトニンがたくさん分泌されることが観察されており、このために寝すぎてしまうのではないか、と考えられていいます。正常人では冬でもメラトニン分泌は夏と変わらないので、このような過眠は起こりません。
    この現象を他の哺乳類の冬眠に相当するという研究者もいて、SADが過眠、過食、体重増加するのも冬眠反応の一種という解釈もあります。
     

    第二に、網膜の光感受性の低下が原因だという研究者もいます。
    人間を含む哺乳類では網膜から脳内の体内時計へ直接の神経繊維連絡があり、これにより目から入った明暗環境の情報がダイレクトに脳内の体内時計に伝達されます。通常、冬の間、光のレベルが低下すると、網膜の感度は増加するのですが、SADの人ではこの反応が損なわれているという仮説があります。実際、重篤な視覚障害がある方ではSADの有病率が高いという報告があります。
     

    最後にセロトニンの減少が原因という仮説もあります。通常のうつ病の治療でもSSRIというセロトニンの再吸収を阻害する薬が使われていますが、SADの患者さんでは、セロトニントランスポーターの活性が亢進し、セロトニンの再吸収が亢進していることが報告されており、これによりセロトニン濃度が低下することでSADが発症する、という仮説です。
     

    【SADの診断と治療】
    つづいて、診断ですが、日本では原則精神科または心療内科で行われます。SADはDSM-5というアメリカ精神医学会の基準では、独立した病気ではなく、大うつ病と双極性障害の亜型だとされています。
     

    治療は通常のうつ病と同じ薬物療法心理療法に加えて、高照度光療法という治療が特徴的です。1万ルクス程度の光を30分~1時間程度照射する治療を行います。
     

    【日常生活の工夫】
    自分でできることとして、くもりの日でも外を歩くこと、有酸素運動ランプを交換して家の中を明るくすること、睡眠環境の改善(これは以前のコラム(https://kenwork.co.jp/column/382/)を参考にしてください)、光目覚ましの利用などが効果があると言われています。
     

    光目覚ましはTV番組の「マツコのしらない世界」で取り上げられたりもしていましたが、本人が覚醒する前の早朝から光を出し始め、30〜90分間で室内の光レベルまで徐々に増加する低レベルの光を発するデバイスです。本来は約250ルクスくらいあれば十分なようですが、現在日本でamazonなどで手に入るものは2500から1万ルクスと非常に明るいです。
     

    このSADはある冬に起こったからといって必ず今後起こるというわけでは有りません。ある年になって、翌年もなる人は50-70%だと言われています。 一方で季節性うつ病の方をフォローアップすると、4割くらいが季節性変動のない大うつ病になったという報告もあるので、注意が必要です。
     

    古くはヒポクラテスが季節による躁鬱発生率の違いを発見したと言われています。そして、詩人はしばしば、秋と冬の日が短くなることに伴う悲しみを描いてきました。人間は昔から秋になって寒くなって来ると体調の変化があると感じていたようですね。
    今元気な人も、生活リズムを崩さず、バランスのよい食事をとり、ゆっくり休む日を自分から積極的に作りましょう。

一覧
ARCHIVE:

産業医をお探しの企業様、
お気軽にお問い合わせ下さい。