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まだ間に合う、働き方改革総チェック〜長時間労働是正の原則〜

  • 2019.02.28


    保健師の徳永です。
    いよいよ2019年4月から「働き方改革」が施行されます。
     
    働き方改革とは、労働基準法や労働安全衛生法をはじめ、計8つの法改正を指します(雇用対策法・労働安全衛生法・労働時間等設定改善法・パートタイム労働法・労働者派遣法・じん肺法)。個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革です。2016年から内閣官房で働き方改革に関する審議が開始され、2018年6月に法案が成立しました(ref)
     
    これらの改正の軸として、9つ示されています。すなわち
    ①非正規雇用の処遇改善
    ②賃金引き上げ・労働生産性向上
    ③長時間労働の是正
    ④柔軟な働き方
    ⑤両立支援(病気、子育て、介護、障害)
    ⑥外国人人材の受入
    ⑦女性・若者の活躍
    ⑧転職・再就職支援
    ⑨高齢者就業の促進

    です(ref)
     
    出生率の低下により長期的に生産年齢人口が減っていく中で、GDPを維持・上昇させていくために、
    ⅰ)なるべく多くの人に元気に長い期間働いて欲しい
    ⅱ)女性、高齢者、病気の人、外国人などにももっと働いてもらいたい
    ⅲ)一人あたりの生産性を高めて欲しい
    などの狙いがあるのでしょう。
    今回はこの中で③長時間労働に関する「罰則付き時間外労働の上限規制」「有給休暇の取得義務」「勤務間インターバル制度」について解説していきます。
     
    はじめに、世界の長時間労働者(週49時間以上)の割合を御覧ください。

    ※労働政策研究・研修機構 「データブック国際労働比較2018」より改変
     
    北欧が最も少なく、日本をはじめアジア諸国が高い傾向にあります。
    日本は2013年に、長時間労働、過労死、ハラスメントによる自殺などを国連から名指しで批判され、防止対策の強化を求める是正勧告まで出されました。
     

    罰則付き時間外労働の上限規制について
    時間外労働について、どう変わったのでしょうか。労働時間は労働基準法で定められ、「原則」、「残業の原則」、「残業の例外」の3段階で考えるとわかりやすいです。
     
    従来
    ▷原則:法定時間内労働は1日8時間or週40時間。法定休日は週1回or4週で4日。
    ▷残業・休日労働の原則:上記以上に、法定時間外労働(=残業)をさせる場合or法定休日に労働(休日労働)をさせる場合は、あらかじめ労使で書面による36(サブロク)協定の締結と所轄労働基準監督署長への届け出が必要。残業は、告示レベル(省令の下のレベル)で 1か月45時間、1年360時間までと規定されるが、明確な罰則規定なし。
    ▷残業・休日労働の例外:36協定に別途、特別条項を定めると、需要が集中する時期など6ヶ月までは、例えば1ヶ月100時間まで、といったように残業時間の上限を増やすことが可能(ref)。残業時間の上限については、労使が合意すれば無制限。例えば国立循環器病研究センターは月300時間、年2070時間の36協定を結んでおり、2017年9月に大きく批判されました(ref)
     
    働き方改革後(大企業は2019年4月~、中小企業は2020年4月~)
    ▷原則:変わりなし
    ▷残業の原則:変わりなし(残業は原則月45時間かつ年360時間)
    ▷残業の例外:従来は特別条項を定めれば無制限でしたが、ここに罰則付き上限規制が追加。すなわち、以下のようになりました。
     1.臨時的に特別な事情があり、かつ双方の合意がある場合、残業は年720時間(=月平均60時間) まで。これ以上は労使で合意しても上回れない。
     2.2-6か月の残業・休日労働の平均は80時間以内
     3.単月の残業・休日労働の上限は100時間未満
     4.月45時間超の残業は6回まで

     
    また、働き方改革後の新しい36協定の書式には、特別条項を適用する業務(月45時間以上の残業が必要な業務)を極めて具体的に書くことが求められるようになりました。漠然と「業務の都合上必要な時」「業務上やむを得ない時」では認めらない、とされています。さらに、限度時間を超えた労働者の健康及び福祉にどのように配慮措置をするか、についても具体的な記述も求められます(10項目から選択) (ref)

     
    今までは違反した場合にも法的強制力はありませんでしたが、改正後は違反した場合6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を課せられます。
     
    ただし、「残業の例外の例外」も存在します。すなわち新しい働き方改革の下でも、上限が違う職種です。これにはドライバー、建設事業、研究開発業務、医師、鹿児島・沖縄の砂糖製造業が含まれます。各職種の各論については後日あらためて書きたいと思います。
     

    5日間の有給休暇の取得義務について
    平成30年就労条件総合調査によると、平成29年の1年間に企業が付与した年次有給休暇は労働者1人平均18.2日、そのうち労働者が取得した日数は9.3日で取得率は51.1%でした。これは世界最低レベルで、政府は第四次男女共同参画基本計画にて、2020年までに有給休暇の取得率を70%にする、という目標を掲げています。

     
    今回の改革では、2019年4月から、年10日以上の有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)は、5日間は会社がとる日時を指定して有給を取得させることが義務付けられました。ただし、既に年5日以上取得している労働者には日時指定の義務はありません。
     
    年10日の有給は、①入社から6か月間継続勤務し、②その期間の全労働日の8割以上出勤していれば、付与されます。また、あまり知られていませんが、所定労働日数の少ないパートタイム労働者であっても、勤務年数と労働日数で定められた日数の有給をとることができます(ref)
     

    なお、有給は原則、労働者が取りたい時に取れますが、請求されたときに休まれてしまうと事業が正常に運営できない場合には、事業者は他の時季に変更することができます(時季変更権、労働基準法第39条第5項)。例えば、業務の繁忙時期や、年末年始等の同一期間に多くの従業員が有給休暇の取得を申請し、全員に有給休暇を付与したら事業が正常に回らない場合などがこれに当たります(ref)

     
    今回の改正で、有給休暇に関しても新たに罰則が設けられています。
    年5日の有給休暇を取得させなかった場合と就業規則への規定をしていない
    場合は労働基準法第120条により30万円以下の罰金、労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合、労働基準法119条により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されます。
     

    勤務間インターバル制度について
    勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するものです。EUでは1993年から導入されており、最低11時間の休息が定められています。
     
    厚生労働省就労条件総合調査によると平成29年は、「導入している」が1.4%、「導入を予定又は検討している」が5.1%、「導入の予定はなく、検討もしていない」が92.9%。平成30年はそれぞれ1.8%、9.1%、89.1%と、導入検討中の企業が急増しています。
     
    今回、労働時間等設定改善法が改正され、勤務間インターバル制度の導入が企業の努力義務となりました。残業で帰りが遅くなった場合や、病院や工場など交代勤務がある職場が対象です。
     
    例えば3交代勤務の看護師の場合、日勤→深夜勤というシフトがあります。名目上日勤は17時で終わるはずなのですが、急変等で残業があると、仮眠も取れずに0時からの深夜勤に向かっています。日勤の疲れも取れずに深夜勤務をすることは大変負担が大きく、また、患者さんの安全を守る上でも問題があります。
     
    日本看護協会は2018年9月に、「3交代勤務では夜勤を月8回以内におさめること」、「前日の終業時刻と翌日の始業時刻に11時間以上の休息を確保する、勤務間インターバルをとること」を提言しました。実質日勤→深夜勤を廃止するよう求めています。
     
    眠い目をこすりながらの看護師に点滴の薬剤を注射されたり、睡眠不足でフラフラのドライバーが走る高速道路なんて、想像するだけでも恐ろしいですよね。インターバル勤務については努力義務のため現在、罰則規定はありませんが、一度事故がおこれば企業も時に致命的な損害を受けます。さらなる普及が望まれます。

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