『CDC(米国疾病管理予防センター)が「今年のインフルエンザワクチンの有効性は低かった」と発表した』とCNNが報じました(ref)。
感染予防効果は全体で47%。17歳までの小児では61%、50歳以上では24%とのことです。
振り返って昨年2017-2018シーズンも、ワクチンの有効性は低く、全体では40%、小児(6ヶ月以上8歳未満)では59%でした。(型別にみるとH1N1が67%、H3N2が25%、Bが42%でした)
なぜこんなにも有効性が低いのでしょうか?理由は主に2つあります。第一はインフルエンザウイルスの進化・変異のスピードが早いためです。WHOが2月末にワクチンを作る系統を決定しても、9ヶ月後の流行時にはウイルスが変異してしまうのです。第二は卵馴化(じゅんか)とよばれる、製造過程におけるワクチン構造の変化のためです。ワクチンの元となった株が正しかった(流行株と一致していた)としても、卵でワクチンを作る過程で抗原変異を起こしてしまい、製品の効果が減じてしまうのです。
しかしそれでも、CDCを始め世界中の専門家は、インフルエンザのワクチンは打ったほうがよい、と考えています。
たとえば、昨年2017-2018シーズンは米国にとって過去最悪の流行で、8万人が死亡(うち小児180人)、90万人が入院しましたが、インフルエンザで死亡した子供の8割は予防接種を打っていませんでした。また、PNAS(米国科学アカデミー紀要)という一流医学誌に乗った論文(ref)では、ワクチンの有効性がわずか20%であっても、米国民の43%がインフルエンザワクチンを接種すれば、誰もワクチンを接種しなかった場合と比べて、死亡者数が半減する、と報告されています。同論文中では、集団におけるワクチン接種の有効性は、ワクチンそのものの効果よりも接種率の方が重要であるとも書かれています(ref)。
さて、日本における今年の流行について現時点での総括をしてみましょう。昨年は約1458万人が罹患し、ピーク時の感染者数は過去最高を更新しました(ref)が、今年の勢いはさらに激しく、2019年2月15日現在で1029万人が罹患し、ピーク時の感染者数は昨年を上回っています(ref)。
これにはH1N1に加え、早くからH3N2も同時に流行したこともあるでしょう(ref)。H3N2に対する今年のワクチンは、2018年10月10日時点で、7割に卵馴化による反応性低下が認められており、有効性が低かった可能性があります(ref)。一般にH3N2はH1N1よりも重篤な病状を引き起こしますし、高齢者施設での集団感染・死亡事例がTV等で報道されておりましたので心配していましたが、幸いインフルエンザ流行による死亡率の上昇(超過死亡)は認められていないようです(ref)。
インフルエンザワクチンの有効性は、特にH3N2でまだ満足いくものでは無いでしょう。今後のさらなる技術の進歩が待たれます。しかし、現時点での有効性でも、打たないよりは全然ましで、なるべく多くの人が打つことが弱い人々(子供や妊婦や高齢者、持病のある方)を守る上で非常に大事です。特に妊婦さんはまだまだ打っていない人も多くいるように思います。妊婦はインフルエンザが重症化しやすく、非常に高リスクです。ぜひ来シーズンは打つことを強くおすすめします。