HOME  >  COLUMN  >  120万人のデータからわかった、健康的なメンタルヘルスを維持するのに最もよい運動習慣とは?~2018年度注目を集めた論文第5位~

120万人のデータからわかった、健康的なメンタルヘルスを維持するのに最もよい運動習慣とは?~2018年度注目を集めた論文第5位~

  • 「運動が精神面によい影響を与える」ということは、多くの方がなんとなく感じたことがあるのではないでしょうか。ランナーズハイ、という言葉もありますし、筋トレに励む経営者が雑誌で取り上げられたりもしています。学術的にも、複数の「ランダム化比較試験」というエビデンスレベルの高い臨床研究で、運動の精神面へのポジティブな影響が示されてきました。しかし、「どんな運動を」、「何分くらい」、「どのくらいの頻度で」やればよいのか、はわかっていませんでした。その理由の一つに、今までのランダム化比較試験のサンプルサイズが小さい、すなわち登録被検者数が少ない、ことがあります。例えば100人に運動をしてもらっても、10スポーツあれば一つのスポーツには10人しかいないので、一つ一つのスポーツの優劣を検出することは難しいのです。被検者数が少ない理由は種々あると思いますが、臨床試験にはお金がかかるので、結果が出せる必要最低限の被検者数にする、という背景もあるでしょう。
     
    しかし2018年8月にLancet Psychiatryという超一流医学誌に、120万人のビッグデータの解析結果が掲載され、大変話題になりました(Association between physical exercise and mental health in 1·2 million individuals in the USA between 2011 and 2015: a cross-sectional study, Lancet Psychiatry 2018 5: 739–46)。オルトメトリクスという学術論文の影響度を評価する指標では、2018年度に出版された全280万の論文中、第5位にランクされています(https://www.altmetric.com/top100/2018/)。この研究は米国CDC(疾病予防管理センター)が管理運営するBehavioral Risk Factor Surveillance System(行動危険因子サーベイランスシステム)の2011年~2015年のデータを解析したものです。18歳以上で全米50州に在住の123万7194人を対象に、「過去30日の間に何日メンタルヘルスが良くない日(以後、「メンタルヘルス不調日」)があったか」答えてもらい、運動習慣の有無で比較しています。この際、年齢、人種、性別、婚姻歴、収入、教育レベル、BMI、(自己報告での)身体的な健康、過去のうつ病の既往、などが影響しないよう、統計学的な手法で調整をしています。
     
    結果、運動群では非運動群と比べて、メンタルヘルス不調日が1月あたり1.49日 (3.45日vs1.96日)減少していました。うつ病の既往のある人では、運動によるメンタルヘルスの改善効果はより大きく、メンタルヘルス不調日が1月あたり3.75日 (10.87日vs7.12日)減少していました。どんな種類の運動であれ、運動をしている人は運動をしていない人よりメンタルはよい状態にありましたが、特にメンタルヘルス負荷の減少効果が大きく見られたのは、チームスポーツ(22.3%減)、続いて自転車(21.6%減)、その次がエアロビクス体操またはジムでの運動 (20.1%減)でした。社会活動全般がストレスレジリエンスを高め、うつを減らす、と言われていますので、チームスポーツに求められる社会性が、孤立感の低減等を通じて、付加的なメンタル改善効果をもたらしたのかもしれません。
     
    また、予定された解析ではありませんが、ヨガや太極拳などのマインドフルな運動も、ウォーキングやその他の運動と比べて、高いストレス減少効果(22.9%減)を認めました。なお、家事もメンタルヘルス不調日数を1月あたり0.4日程度減らす効果があると示されています。
     
    運動時間は1回45分、頻度は週3-5日が最もストレス低減に効果的だという結果でした。1週間あたり2~6時間が最も適切でしょう。なお、本研究では、週6時間以上、月23回以上、1回につき90分以上の運動は逆にメンタルヘルスの悪化が見られるという結果になり、この点も海外のメディアで大変話題になりました。しかし、運動のしすぎが本当にメンタルに良くないか、についてはまだまだ断定的なことを言える段階ではありません。観察研究という試験デザインの性質上、言えるのは相関関係であり、因果関係はわからないからです。たくさん運動するとメンタルヘルスが悪化するのかもしれませんし、メンタルの状態が悪い人が頑張ってたくさん運動をしているのかもしれません。また、2017年に英国バイオバンクから、メンタルヘルス不調者は自身の身体活動性を高く報告しやすい、という研究がでており、本研究においてもメンタルの状態の悪い人が運動量を過大に報告している可能性も否定できません(自己報告式の調査の限界でもあります)。さらに、90分の長時間運動がポジティブな神経反応を引き起こす、という本研究結果と食い違うような基礎実験データもあります。
     
    以上より、健康的なメンタルヘルスを維持するための運動習慣のポイントは次の3つです。
    ・1回45分の運動を週3-5回。
    ・(週3回もできなくとも)やらないよりは少しでも運動をしたほうが良い。
    ・運動の種類は、できればチームスポーツだが、無理ならサイクリングやジム通いが効果的。
     
    運動があまり得意で無い私も、45分なら集中して頑張れそうな気がしてきました。2019年、一歩踏み出してみませんか。

一覧
ARCHIVE:

産業医をお探しの企業様、
お気軽にお問い合わせ下さい。