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中高年男性の意外な不調の原因

  • 2018.12.13

    中高年男性の皆様、
    「最近疲れが取れず、仕事に集中できない。」
    「なんかやる気もでない」
    「仕事のミスもしてしまって、イライラしやすい」
    と不調を感じることはないでしょうか?
     
    12 月なら「忘年会続きで単に飲み過ぎ」ということもありえますが、貧血や甲状腺機能の異常など内科の病気や、職場でのトラブルや家庭内不和によるメンタルの問題の可能性もあるでしょう。しかし、見落とされがちですが、泌尿器科の問題の場合もあります。男性ホルモン(テストステロン)の低下によって起こるLOH(Late Onset Hypogonadism)症候群、いわゆる「男性更年期」です。
     
    LOH症候群は、女性の更年期ほど多くみられるものではありません。例えばホットフラッシュは、60-80%の女性が経験する(Climacteric 2007;10:197–214.)と言われていますが、40歳から79歳までの欧州諸国に住む男性2966人のうち、LOH症候群と診断されたのは63人(2.1%)のみでした(J Clin Endocrinol Metab. 2012 May;97(5):1508-16.)。
     
    男性ホルモンの一つであるテストステロンは、主に精巣のライディッヒ細胞という場所で作られ、性欲をおこすだけではなく、全身に運ばれて様々な働きをします。骨格や筋肉を作ったり、内臓脂肪を減らしたり、造血に関与したり、集中力や判断力などの脳の認知機能にも影響しています。
     
    このテストステロンは35歳をすぎると徐々に分泌量が下がっていき(Eur J Endocrinol. 2015;173(6):809.)、気分の落ち込み、認知機能の低下、筋肉量低下、脂肪増加、体毛の減少、性欲の低下、ED、貧血、骨密度の低下など種々の症状を引き起こします。肥満と低身長の方はテストステロン値が低い傾向にあります。(J Clin Endocrinol Metab. 2008;93(7):2737. )
     
    自分がLOH症候群かもしれない、と感じた方は、AMS(Aging Male’s Symptom)スコアという症状の自己チェックテストをやってみるのもよいでしょう。AMSスコアと総テストステロン値はかならずしもパラレルではありませんが、合計26点以下は正常、27-36点は軽度 、37-49 点は中等症、50点以上は重症と判定されます。
     
    LOH症候群の診断には症状に加えて、採血が必要です。テストステロン(日本では遊離テストステロン、海外では原則総テストステロン)、LH、FSHをまず測定します。テストステロンは起床時から午前11時までにピークとなるので、採血は午前中の空腹時に行いましょう。最も高い時の数値で、基準値より低ければ、それ以外の時間帯でも当然低いでしょう、となるからです。(余談ですが、高齢者ではこのテストステロン値の日内変動も少なくなります)
     
    テストステロンが下がっていて、LHが上がっていれば、一次性の性腺機能低下(精巣の問題)です。一方、テストステロンが下がっていて、LHが上がっていなければ、二次性(精巣以外の問題)です。この場合、プロラクチンや甲状腺ホルモン、鉄やトランスフェリン(ヘモクロマトーシスの除外)等を追加で採血するとともに、脳下垂体腫瘍の除外のために脳MRIを行うことも検討します。頻度は少ないものの、LHとテストステロンが正常で、FSHのみ上昇している場合は、精巣の別の場所、「精細管」障害の可能性があります。精子数が減少しているかもしれません。
     
    テストステロンの欠乏症状があり、採血でテストステロン値が低く、脳下垂体腫瘍など他の原因がなければ、LOH症候群と診断され、テストステロンの補充療法を検討します。但し、次のような疾患がある人等への補充は推奨されていません:近々子供を作りたい人、乳がん、前立腺がん、前立腺結節、PSA>4、PSA3ng/mlで前立腺がんのハイリスク群(アフリカン・アメリカンや第一親族に前立腺がんがいる人)、へマトクリット>48、重症睡眠時無呼吸、重症下部尿路症状、コントロールされていない心不全、6ヶ月以内の心筋梗塞、脳梗塞、血小板増多症 (J Clin Endocrinol Metab, May 2018, 103(5):1715–1744)。いずれも、テストステロンの補充で増悪する可能性がないとは言えないからです。このような禁忌がない場合、①通院で2週間に1回男性ホルモン剤の注射、もしくは、②自宅で陰嚢に男性ホルモン軟膏を毎日午前中に塗る、のどちらかの治療を行うことが一般的です。
     
    たしかに加齢によるテストステロンの低下に対する補充療法は、各国のガイドラインで推奨はされているものの、十分な質のランダム化比較臨床試験に乏しくさらなる検討が待たれます。しかし、治療効果に個人差はあるものの、元気を取り戻して再び仕事に集中できるようになったり、趣味を楽しめるようになったりした方もいらっしゃいます。性生活の方も改善されることが多いようです。
     
    LOH症候群かと思ったらやはりうつ病だった、ということも十分ありえますので、診断には慎重さを要しますが、原因不明の不調で悩まれている男性諸氏は思い切って泌尿器科で相談することも一つの方法かもしれません。

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