約6割が、職場で強いストレスを感じている
職場に強いストレスを感じる労働者は、平成28年の労働安全衛生調査で59.5%にのぼりました。職場での人間関係や仕事の量・質は強いストレスの原因となり、時にメンタルヘルス不調を引き起こします。「特定の合わない人がいて眠れなくなってきた」、「上司と部下の板挟みにあっておりストレスが溜まっている。最近仕事に集中できず、数字のミスが増えた」、「マルチタスクが苦手なのにマルチタスクが求められる職場におり辛い」など本当に様々な悩みやストレスをお聞きします。これら職場要因からメンタルヘルス不調をきたし休業中の社員が復職する際には、職場環境への介入 (残業制限や配置転換など)が重要です。原因に介入していかない限り、底の抜けた桶で水を掬うようなものだからです。
日本の勤め人の6割は中小企業で働いている
大企業では産業医が、本人と会社の調整役となり職場環境調整を進めていきますが、労働者50人未満の中小事業所では、産業医の選任義務はありませんし、産業医を雇う余力がない場合も多いでしょう。しかしこのような中小事業所は事業所数ベースで97%、人数ベースで60%と実際は多数を占めています。小さな企業で働く人が、メンタルヘルス不調に陥った場合の環境調整は、誰がどのように行えばよいのでしょうか?
中小企業でのメンタルヘルス不調にどう対応するか?
第一は職場が精神科主治医と直接連携することです。職場から主治医へ伝えることとしては、「どんな仕事をどんな環境でしていたのか」、「人間関係がどうであったのか」、「サポート体制はどうであったのか」、「休職・復職に関わる制度がどうであるか」、「不調になる前と休職前の様子はどうであったか」、「職場復帰を可能とする要件」、「職場で配慮できること、配慮できることの限界」などでしょう。逆に、職場が主治医から知りたいこととしては、「病状や生活リズムの回復程度」、「業務上必要な配慮」、「薬剤の副作用」、「再発・再燃の可能性の程度と今後の治療方針」などでしょう。このような連携は2009年に厚生労働省がまとめた「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の中でも重要だとされていますが、現在主治医側に診療報酬でのインセンティブはありません。精神科医の熱意と責任感による無償ボランティアです。兵站の確保のないまま前線に送り出すような制度設計で、今のままでは連携は進みえないと思います。
なお、がん患者さんに関しては、平成30年3月から「療養・就労両立支援指導料」が新設され、主治医と産業医が「治療と仕事の両立に関して必要な配慮」について文書でやり取りをした場合、6ヶ月に1回、1000点(1万円)算定できることになりました。通常の診療情報提供書は250点(2500円)ですので、充実した診療報酬がついています。しかし、これはメンタルヘルス不調で休職中の患者さんには当てはまりません。
第二は、社内の衛生推進者等を通じて、地域産業保健センターと連絡をとってもらい、産業医面談をセッティングすることです。衛生推進者は10~49人の事業所でも選任義務があり、労働者の健康障害を防止する措置に関する責任者です(50人以上の事業所での衛生管理者に相当します)。地域産業保健センターは、50人未満の事業所に産業医サービス(労働者の健康管理・メンタルヘルス相談、長時間労働面談、高ストレス者面談、作業場巡視など)を無料で提供しています。地域産業保健センターへの依頼は会社を通じて申し込む場合がほとんどですが、一部労働者の直接受診を認めている場所もありますので、会社所在地の地域産業保健センターに電話して問い合わせるのも良いと思います。