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若年男性における風疹の流行

  • 2018.09.15

    マスコミで風疹の流行が報道されています。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180911/k10011623951000.html

     

    2018年の国立感染症研究所の「首都圏における風疹急増に関する緊急情報」を見ると、8月から患者数が急激に増加していることがわかります。

    第30週(7月23日〜29日):19人

    第31週(7月30日〜8月5日):22人

    第32週(8月6日〜12日):42人

    第33週(8月13日〜19日):75人

    第34週(8月20日〜26日):97人

    第35週(8月27日〜9月2日):75人

    風疹は発疹と熱が出る子供の病気というイメージがあるかもしれませんが、実態は違います。上記患者の実に94%が成人で、男性は女性の約4倍多く、特に30-40代 (男性全体の64%)に多くなっています。予防接種歴は「なし」または「不明」で9割を占めています。風疹は今や若年男性の病気なのです。

     

    なぜ若年男性ばかり風疹にかかっているのでしょうか?彼らは、風疹の予防接種政策が二転三転してきた結果、予防接種を1回しか受けておらず、また、高齢層と違って自然罹患もしていない、谷間の世代なのです。

     

     

    風疹の予防接種は1962年に中学生女子を対象に集団接種が開始されました。1979年には男女共に中学生時に予防接種をうけることとなりましたが、個別接種といって各自が医療機関で受けるシステムになりました。その後、1987年にはタイミングが幼児に変わり、1990年から現在と同じ幼児期の2回接種が開始されました。このような変遷を経ているため、当時のプログラム通りにキチンと予防接種を受けてきていたとしても、28歳〜38歳の男性は1回のみ接種、39歳以上は接種歴なし、28歳〜55歳の女性も1回のみ接種、56歳以上は接種歴なし、となっています(誕生日の関係で前後1歳ほどの幅をみて下さい。)

    なお、現在の医学では、風疹の予防接種は1回では不十分と考えられており、2回接種することが肝心です。

     

    年代別の風疹抗体の保有状況を御覧ください。(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/03/457r07f02.gif)

    「30代後半以降の抗体保有率についてみると、女性ではすべての年齢群で90%以上であったのに対し、男性では60歳以上群を除くすべての年齢群で90%を下回り、特に35-39歳群(84%)、40-44歳群(82%)、45-49歳群(77%) および50-54歳群(76%) では同年齢群の女性(97~98%)と比較して14~21ポイント低い抗体保有率であった」とあります。(国立感染症研究所HPより抜粋https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2428-iasr/related-articles/related-articles-457/7914-457r07.html)

    抗体価をみても、若年世代の男性が風疹に対して免疫がないことがわかります。

     

    予防接種の枠組み上は30代の女性と男性では差がないのに、抗体保有率に大きな開きがあるのはなぜなのでしょうか。これについてキチンとしたデータはないのですが、現在31-39歳となる世代は集団接種から個別接種に切り替わり、男子の接種がはじまった時期に生まれました。それ以前の17年間は、中学生の時に女性のみを対象に、学校で集団接種が行われていました。そのため地域に女性は風疹ワクチンを打ったほうがよい、というコンセンサスが存在し、女性の多くは個別接種になってもワクチン接種に連れていかれたものの、男性はあまり周知されておらず、打たれなかったのかもしれません。しかしながら、当時の接種率のデータがないため検証はできず、憶測の域をでません。

     

    風疹は成人が罹患すると重症化しやすく、時に命の危険や後遺症が残る恐ろしい疾患です。また、妊婦(20週頃まで)が風疹にかかると、胎児が風疹ウイルスに感染し、時に先天性風疹症候群を発症、難聴・心疾患・白内障などの障害が残ります。2013年に風疹が流行した際は14,344人の患者が報告され、先天性風疹症候群の赤ちゃんが45人確認されています。妊婦さんを守るためにも、男性が風疹ワクチンを打ったほうが良いのです。

     

    自分はワクチンを打ったほうが良いのか?と考えた方は、まずは母子手帳を確認して下さい。母子手帳に2回接種記録があれば大丈夫です。

    また、市町村によっては風疹抗体検査を公費で行っているところもあります(条件があります)。

    公費で助成がない場合は、自費で抗体検査を受けることもできますが、検査をせずに、ワクチンを打ってしまうこともお勧めしています。その場合、通算2回の接種になるようにしますので、やはり母子手帳を確認していただくことが必要です。幼少期に1回打っていれば、追加で1回打つことになります。幼少期の接種歴がない、または母子手帳の紛失などで不明な場合は2回打ちます。仮に今まで2回接種している方が、通算3回目を打っても問題ありません。

     

    風疹ワクチンはインフルエンザワクチンと少し違うところがあります。インフルエンザワクチンが「不活化ワクチン」なのに対し、風疹ワクチンは「弱毒生ワクチン」だということです。インフルエンザワクチンが原因でインフルエンザになることは原理上ありえませんが、風疹ワクチンはすごく体調が悪くて免疫が落ちている時に接種すると、発症してしまう可能性が原理上0ではありません。もちろんものすごく少ないですが、体調が悪いときの接種は控えたほうがよいでしょう。

     

    もう一つ、風疹ワクチンは、女性が打った場合は2ヶ月(人によっては3ヶ月という人もいます)避妊が必要です。パートナーがいる方、不妊治療を受けている方は気をつけて下さい。なお、男性の避妊は(ワクチンに関連しては)不要です。

     

    その他、打った場所が腫れたり、熱をもったりすることもあります。大事に至ることは少ないですが、そのような症状が続く場合は、接種した医療機関に相談して下さい。

     

    なお、風疹ワクチンを打っていない谷間の世代は、麻疹のワクチンも十分に行えていません。麻疹と風疹をあわせたMRワクチンというものがあるので、現場ではこちらをお勧めすることも多いです。

     

    風疹にかからない最も確実で唯一の方法はワクチンを打つことです。30代から60歳手前までの男性が最も風疹にかかりやすい世代です。妊娠を考えているカップル、お孫さんを迎える家庭などではぜひ話題にして欲しいと思います。

     

     

     

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