うつ病では多くの方が不眠を訴えます。うつ病の方の睡眠に何が起こっているのか、抗うつ剤と睡眠剤は両方飲んだほうがよいのか、そしてよりよい睡眠のために今日からできることは何なのか、などについて医師が解説します。
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うつ病と睡眠障害
うつ病と睡眠には深い関係があります。
睡眠不足の人はそうでない人と比べて10倍うつになりやすく、17倍不安を抱えやすいと言われています。
逆に、うつ病になると睡眠の問題はほぼ必発です。その多く(8割)が不眠で、ベットに行っても眠りにつけない「入眠障害」や、夜途中で起きてしまう「中途覚醒」、眠りが浅くてよく寝た感じがしない、日中に眠気が続く、など様々な症状がでます。
一方で、食事とトイレ以外の時間ずっとウトウトしているような、過眠になる方も少数(5~20%程度)います。このような過眠は、若い女性に多いと言われています。
どのくらい眠れればいいの?
現代人は「睡眠不足」といいますが、私達はどれくらい眠ればいいのでしょうか?一部のショートスリーパーと呼ばれる、短時間睡眠で大丈夫な人たちもいますが、米国国立睡眠財団によると、25歳〜64歳は少なくとも6時間、できれば7~9時間寝ることが望ましいとされています。なお、加齢とともに必要な睡眠時間は減り、65歳以上は5時間以上とされています。
うつ病の人の睡眠パターンは、普通とどう違うの?
通常の睡眠サイクルでは、入眠直後にまずノンレム睡眠が現れます。深い眠りで、脳も休息した状態です。続いて、浅く、脳は起きている状態のレム睡眠に移行します。このレム睡眠の時にまとまりのある夢を見ると言われています。睡眠中はノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しますが、明け方になるにつれレム睡眠が増え、体は起きる準備をしています。
一方うつ病患者では入眠直後のノンレム睡眠の時間が短く、レム睡眠の出現が早くなります。また、トータルでのレム睡眠時間が長くなります。このため、睡眠が浅く、夜中に起きてしまうのだと考えられます。
抗うつ薬と睡眠薬は両方飲まないとだめなの?
うつ病で最初に出されることの多い、SSRIやSNRIといった薬は、レム睡眠の出現を遅らせ、レム睡眠量を減らします。うつ病の睡眠の特徴は、レム睡眠の出現が早くなり、レム睡眠が増えることでしたので、それを正常方向に戻す働きがあるのです。しかし、睡眠の持続時間は必ずしも長くならないため、不眠症状が改善しない場合があります。そのため、眠気を出すようなベンゾジアゼピン系の睡眠剤やトラゾドン、三環系抗うつ薬が一緒に出されるのです。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の短期間(3-4週間)の効果は確立されていますので、出された場合は自分で調節せずにしっかりと飲む方が良いでしょう。長期間の内服については、確かに依存性や耐性の問題もありますが、うまく使えれば怖い薬ではありませんので、主治医の先生とよく相談し薬を調整しながら使っていければ良いと思います。
より良い睡眠をとるために、お薬以外はないのですか?
睡眠時無呼吸症候群があったらまずはその治療をしましょう。うつ病の人は健常者の5倍睡眠時無呼吸に悩んでいると言われています。夜呼吸が止まっていると言われた人、いびきが大きい人、太っている人は要注意です。また、首が短い人、顎が小さい人、舌が大きい人、歯並びが悪い人などもハイリスクです。睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気に加えて、高血圧や夜間頻尿、さらには心筋梗塞、脳卒中、突然死など重篤な病気の原因になります。CPAP(シーパップ)という機械を使った治療で睡眠状態が改善すると、うつも改善するという報告もあるので積極的に治療した方がよいでしょう。
より良い睡眠は取るための6箇条
最後に、眠るための環境作りについてお話します。
「うつ病の不眠」に限定して効く環境づくりについてはほとんど検討がないので、一般の方にも共通する内容です。
良い睡眠をとるために大事なことは6つあり、3つのしないほうがよい事と、3つのした方が良い事があります。
3つのしない方がよい事
①正午以降はアルコール、カフェイン(コーヒー、紅茶など)、喫煙をしないようにしましょう。また、市販の頭痛薬や鎮痛剤はカフェインが入っている場合があるので成分表示を見て注意しましょう。
②ベッドでテレビを見たり、スマホやタブレットでゲーム・動画・読書をしないようにしましょう。モニターから出る光が、メラトニンというホルモンを減らし眠れなくなってしまいます。また、ベットは眠るための場所、と習慣づけることが大切です、
③テレビをつけたまま、音楽をかけたまま寝ないようにしましょう。自分では覚えていなくても、ちょっとした音量の変化が睡眠の質を下げていますう。
3つのした方が良いこと
①日中に激しすぎない運動をしましょう。散歩やストレッチ、家の中の掃除でもよいので活動量を増やしましょう。
②寝る1〜2時間前に40℃〜42.5℃の暖かいシャワーを浴びましょう。手足が温まり、熱の放散が増えて体が冷えるにつれ深い眠りにつくことができます。冷え症で厚い靴下を履いて寝る方をもいると思いますが、熱の放散が抑えられてしまうので、靴下は脱いで寝た方が良いでしょう。
③寝室を暗く、涼しくしましょう。遮光カーテン、耳栓、アイマスクなども積極的に活用しましょう。家族と生活パターンが違って、物音で寝つけない場合は「ホワイトノイズマシン」というものを試しても良いかもしれません。赤ちゃんに換気扇のファンの音を聞かせるとよく寝る、というのを効いたことがあるかもしれません。同じような音や、海の波打ち、小鳥のさえずりなど眠りにつきやすい音を出す機械が3,000円程度で売っています。
それでも眠れなかった場合は?
「寝なきゃダメだ」とか、「眠ろう眠ろう」と思うと、かえって眠れないものです。ある程度の時間ベッドにいて眠れなかったら、一度ベッドから出ると良いでしょう。頭が興奮している時はヨガや腹式呼吸でリラックスを図ったり、翌日行うことは紙に書いて頭を空っぽにしましょう。興奮しすぎない読書やリラックスできる音楽を聴いて眠くなったら再びベッドに入ってみましょう。
(参考)腹式呼吸の方法
1.リラックスした姿勢でゆっくり目を閉じる
2.鼻から大きく息を吸う。
お腹に空気をためるイメージを持ちましょう。
3.口からゆっくりお腹にためた空気を吐き出す。
2秒吸って、4秒で吐く、位のペースがよいでしょう。吐く時には肩の力も抜くのがリラックスのコツです。